みなかさんと健康診断(後編)

【レントゲン】

 各種検査のための部屋の前には箱っぽいものが設置されており、そこに自分のファイル(事前に記入した問診票を含む用紙が入っており、検査の順番の書かれたシールなんかが貼ってある。ひとつの検査が終わるごとに、「終わったよ」という証として、担当者の印鑑やらサインやらが検査項目名の下に押されたり書き込まれたりするもよう)を置いておくと、

 それが病院の診察券(入れ)のような役割を果たすようで、ファイルを入れた順番に名前を呼ばれて部屋に入って検査を受け、そして検査が終わると次の検査の部屋を指示され、その部屋の前の箱っぽいものにまたファイルを入れて、という感じで検診は進むのですが、

 最初は胸部レントゲンで、特に書くことがありません(!)、医療被曝が少し心配なくらいです。レントゲン撮影のおじさん先生と助手っぽい女子が、「今日は人が少ない」とかに始まり、まずくない程度に職場の話、雑談てきな話をしていて、二人はきっと不倫関係にあるのだろうと思いました。

 

【採血】

 検診中に持ち歩くファイル、には先述のとおり、検査の順番の書かれたシールが貼ってあるのですが、採血が二番目にきているのを見たときに、みなかさん、採血というのがおそらく人生初でしたので、

 「最初にそんなハードな項目をこなしたら、残りの検査、貧血状態&採血跡から流血しながら受けることになるのでは」、とガクブルしたのですが、採血、実際やってみると、最初ちくっとした以外は、特になんてことはなく、

 採血をしてくださったのは、わりと大きめ体型の女医さんだったのですが、「今日はどの血管を血祭りにあげてやろうかしら、ふふふ」という感じで、血管を吟味している様子もあったので(採血がうまい人は採血に適した血管をちゃんと選ぶのだ、と事前にネット情報で見た)、わりとプロフェッショナルな方だったのかもしれません。

 血もほとんど出ていなくて、あとに貼られたばんそうこうにも、つまようじの先くらいの黒ポチがひとつ残っていただけで、採血についてはみなかさん詳しくないですが、傷口は血管から少しずれていて、

 血管がブレないように軽く押してホールドしつつ(それで一時的に血管が本来の位置から少し移動し、血管と違うところに針の跡があった?)、気持ち血管のサイド目を狙って針を入れたのかなという印象で、いろいろテクニックがあるんだろうなという感じがしました。

 話しかけてくれていたのも、もしかしたらトークで気をまぎらわせようとしてくれていたのかもしれません、「採血初めてなんですよー」みたいな話とか、「昔ぜんそくだった」、みたいな話をしたような気がします。

 基本の検査用に採血管3本分の血液が必要らしく、それだけでもわりとやばそうだったのに、みなかさんオプションなんかを追加してしまったものだから、結果的に採血管4本分の血を採られ、貧血で倒れるかと思いきやノーダメージで、相変わらずの隠れ健康体ぶりがなんだか残念でした。

 事前のネット情報では、「採血のあとは自分で手で5分間押さえて止血する」、みたいに書いてあった気がしたのですが、ここではばんそうこうを貼られたあと、バンド(マジックテープのついたゴム製?なのか、わりときつく締めつけることができる)をその上から巻き、自動&物理で押さえるスタイルのようで、

 確かに各々に任せてしまうと、人によっては押さえる力が弱かったり、何か別の注射のときと勘違いして、患部をモミモミしてしまったり、トラブルのもとになりそうなので、そこを自動で、物理でやってしまい、均一を達成するというのは、素敵な方法だと思いました。

 しかしあの採血テクニックだと、旦那さんが寝ているあいだに採血用の針を刺して放置しておけば、朝には失血死させられてしまいそうだし(採血管は真空になっているから血が入っていくらしく、採血用の針を刺しただけの静脈からそんなに大量の血液が自然に流れ出続けるのかは分からないが)、

 レントゲン技師さんもその気になれば、マックスパワーに設定したX線10連発とか浴びせれば、いやな奴をがんで抹殺することもできてしまいそうで(ただちに影響はないだろうが)、医療技術の悪用怖い、意図せずそういう状態になってしまう医療ミス怖い、と思いました。

 

【視力・血圧・身体測定】

 ちょっと心残りだったのが視力検査で、双眼鏡みたいなのを覗き、例のやつの方向に応じてレバーを上下左右に倒し(斜めはない)、見えなかったら×のボタンを押す、というスタイルで、

 学校とかの視力検査だと、最初はゆるいの(大きい、視力が低くても見えるもの)からスタートだった記憶があるのですが、ここではいきなり最高難度みたいな、すごい小さいやつが出てきて、どっち向きか考えていたら(それは反則なのだが)次の問題に行ってしまったり(×ボタン押す必要ないんかい)、

 その後も全然見えないまま、3~4問くらいやったところで、「はいお前視力0.1未満、終了」みたいな感じで終わってしまって、隣の人は目がいいらしく、次々と答えつづけているのに、みなかさんは「やる気なくて適当に答えた悪い奴」の疑いをかけられそうなほど、見事な即死ぶりで、途方にくれながら係の人が声をかけてくれるのを待っていました。

 もちろん採血したのとは反対側の腕で、血圧測定(視力、血圧、身体測定は同じ部屋だった)、こちらもおそらく初体験となります。どの段階での数字が真のみなかさんの血圧なのかよく分からなかったし、思っていたより奥に腕を入れることを指示され、相対的に腕まくりが足りない状態になり、

 微妙に検診着を巻き込んでいたのが心配でしたが(でも「腕入れ直せ」みたいなランプも装備されていて、それが点いていなかったので、平気なような気もする。見たら隣の人もみなかさんと同じくらいの腕のまくり具合だったし)、最終的にディスプレイには「110の60」くらいの数値が表示されていた気がして、

 みなかさんてっきり自分は高血圧と思っていましたが(塩分わりと好きなので)、数値を見る限り、低血圧っぽい雰囲気があり、なんか健康診断って、こういう自分の思う自分とのギャップがおもしろいですよね、

 少し前に職場で、「原因不明で日中やたら体がだるい」、という症状が続き、病気なのかお酒飲みすぎなのか、少し遅い夏バテなのか低気圧のせいなのか、と考えていたことがありましたが、もしかしたら単純に低血圧のせいだったのかもしれないと思いました。

 身体測定は、足を乗せる部分が一部金属になっている、普通の体脂肪計つきの体重計、みたいなのに乗るスタイルで、「身長を測る様子がないけど、これに乗っただけで(電気抵抗とかで)測れるのかな?ハイテクやな」とか思っていたら、

 上から身長測定用のバーが「スーッ」と降りてきて、みなかさんの頭を「ペシッ」とやり、すぐに戻っていきました、少しイラっとしました(これもまたちらっとしか見えなかったのですが、体脂肪が16パーとかで、明らかに内臓脂肪が以前より増えている予感がして、まずいなと思いました、当時は12パーとかだった気がする)。

 

【心電図】

 少しお年を召された感じではあるものの、日焼けなのか色黒なのか、わりと健康的な肌の色をした、美人な感じのてきぱきとした女医さんに、何かをされたり(心音を聞かれたのかなんだったか、忘れてしまった)、

 「そこに横になってください」とベッド・インを指示され(枕が四角くて硬くて首が痛い)、吸盤っぽいもののついた変なコードを胸のあたりにくっつけられたり、足をクリップっぽいものではさまれたり、という妙なプレイをされつつ、だいぶスピーディに検査が終了しました。

 女医さんについては、「実は甘えん坊、愛情深い、M気質あり、けっこう男にはまってしまうタイプ、性欲は強め」、というみなか診断結果でした(読者様:「みなかマジきもい」)。

 

【聴力】

 さっきの女医さんに案内され、聴力検査の部屋へ。ヘッドホンを耳に当て、アイルランドの少女が歌う、なんてことはなく、普通に音が鳴るので、聞こえたら音が鳴ったと思ったほうの耳と同じ側の手を挙げる、という、これだけなぜかアナログ(聞こえたらボタンを押すとかではない)な感じの検査でした。

 あくまでおまけてきな検査項目、ということなのかもしれませんが、なんか、「聞こえる聞こえない」より、「(音が鳴っていることに)気づくか気づかないか」の問題というか(周りもそこまで本格的に無音、とかではないし)、「それが目的としている音なのかどうか」に迷う感じで(「ピーとかポーとかいう音が鳴るので」と説明もなかったので)、

 極端な例ですがメタリカのマスターオブパぺッツのイントロがヘッドホンから聞こえてきたら、検査なのかなんなのかよく分からなくて手を挙げづらいと思うので(?)、初見と経験者で差が出る検査だなと思いました、学生時代にやっているはずなのでみなかさんも初見ではないはずなのですが、あまりに時間が空きすぎているので(そしてなぜこのくだりだけ音楽要素が)。

 

【診察】

 「診察終わりました?(こうこうこういうやつ)」と聞かれた際、適当に「はい」と言ってしまったら(こうこうこういうやつ、の内容が、心電図の女医さんがやってくれた内容、にニュアンス似ていたので)、

 「まだみたいですね」って速攻でばれつつ(検査完了のしるしがなかったため)、アンニュイな感じの女性に部屋に連れ込まれ、助手さんかと思ったらどうやらその人が先生だったらしく(先生用の椅子に座りだしたので判明した)、そのままラスト項目の「診察」へ。

 愛想はいいけどちょっとけだるい感じのその女医さんに、聴診器プレイをされたり、「リンパ腫れてないか診ますね」と言われ、ひんやりとした細い手で、無造作かつ無邪気、ソフトなタッチで、ぺたぺたと首筋を触られて、

 ああこれはまずいですという感じで、みなかさんの波動砲がチャージを始め、ジャージ素材の丈夫な検診着を突き破ってしまうのではないかと心配しました。

 「こんな美人な先生だとリンパじゃなくて○ン○が腫れちゃいますね!ガハハ!」みたいな感じでコミュニケーションをとろうかとも思いましたが、総務の女ボスに報告されても困るのでやめておきました、会社勤めのつらいところです。

 

健康診断後に見た青空の写真

空がすっかり秋っぽくなりました(浄化)

 

【雑感】

 せっかく外出したのでどこかでごはんを食べて帰ろうとも思ったのですが、また迷子になってもあれだったので(建物に入って出るとすべての地形情報がリセットされてしまう、本当に)、素直にそのまま帰りのバスに乗りました。

 恐れていた初採血がたいしたことなくてほっとした、というのが率直な感想でした。インフル系の微妙に痛だるい感じがしばらく、腕に残ったりはしていましたが、それもすぐに消え、内出血とかも一切なかったので、たぶんうまい人に当たったのでしょう。

 もしかしたら彼らは健康診断専門のお医者さん方で、実際の「病院」はまた違うのかもしれませんが、今日の感じを見ていると、ブラックジャックてきな奇跡は起こせないにしても、病院系ドラマみたいに暑苦しく、感情的に、必死になったりせず、

 それなりに熟達したスキルと、適度な愛想で、ある程度最適化されたマニュアルに従い、それなりの対応とそれなりの治療をしてくれて、もし治療の甲斐なくみなかさんが死んでしまったとしても、一時的に少しだけ悲しんだり寂しがってくれたりする人もいたり、特に気にしないでくれたり、

 という適温(逆に、すごく頑張られたりすごく気に病んだりされても気まずい)な感じで、対処してくれるのがお医者さんということなら、病院はわりと悪くないところかも、と思いました。

 問診票、「寝る2時間前以降に夕食を食べる日が週に3日以上ありますか」みたいな、つまりその逆をやれば健康になれる、というような情報の宝庫だった気がして、でもファイルと一緒に回収されてしまったので、健康になれるチャンスを逃してしまった気分になっているみなかさんでした。

 

健康診断をテーマに作られた現代アート作品の写真

どこに捨てればいいか分からずバッグに突っ込んでおいた、検診のときにはくスリッパの入っていたビニールと、使用済みばんそうこう、で制作された、健康診断をテーマにした現代アート作品